COLUMN

18歳からの漫画の描き方

vol.10

まずは読者の声を「聴く」こと

ではどうやって読者とコミュニケーションを図るのか。まずは、読者の声を「聴く」ことです。もちろん、原稿用紙に耳を当てても読者の声は聞こえて来ません。当たり前です。しかし、私たちは例えばネットニュースを見たり、ツイッターをやったり、2ちゃんのまとめブログのコメント欄を見ていて、この2015年に日本で生きる自分の読者ターゲットの人たちがどういうことを考え、どういうことに興味があり、あるニュースに対してどういう反応をするかを見ることは出来ます。読者の声を聴くとは、そういうことです。

例えばですが、現代の若い読者は90年代ジャンプのようなわかりやすい成長物語を好みません。2000年以降、経済が実質成長しておらず、お給料も上がらないし、国には多くの借金があり、明るい話題が少ないこの2015年の日本人の若者は、90年代の若者のようなわかりやすい成長をイメージ出来ない、もしくはそういうわかりやすい成長を「ウソじゃん」と認識します。宝島社が出す「このマンガがすごい!」の2015年度版のオトコ編1位「聲の形」では、キャラクターたちは物語の中で、過去に喪失した自分を取り戻し、最後にようやく少しだけ成長します。オンナ編1位「ちいちゃんはちょっと足りない」でも、主人公ナツは「ちょっと足りない」ままで、最後にちいちゃんとの絆を再確認するだけで物語は終わります。もちろん、キャラクターが成長していく物語もあります。が、時代の空気はどちらかというと明るく成長する物語よりも、キャラクターたちがほとんど成長せず、物語世界の微妙な人間関係の中での繊細なコミュニケーションを図っていく物語を好みます。そして、こういうのは、先に挙げたツールを読んだり見たりする事で、同時代の想定読者の声として聴くことが出来ます。

読者が見たいものを見せられ、読者が言って欲しかったことを言える作家になろう

みなさんの中で、もしもこれまでに実際に漫画を描いてことがある人、ネームなどを描いたことがある人は、ぜひ自分の原稿をそういう目で見返してください。みなさんの原稿の中に、そういう現代の読者が見たいもの、言って欲しいことを見せられている、言えている場面があるでしょうか? 読者の視点に立った時に、独りよがりな原稿になっていないでしょうか? 多くのみなさんは、きっと自分の伝えたいことだけを伝えている、ある意味で独りよがりな原稿になっていると思います。それは当たり前のことで、この原稿用紙を使っての会話が出来るようになればプロの漫画家になれますから、まだプロではないみなさんがそれが出来ていないのは当たり前のことです。ただし、今後そういう視点を持って欲しいのです。原稿を持ち込みに行くのは、大変勇気のいる作業です。緊張するのもわかります。けれど、ぜひみなさんには、緊張しないで、自分の原稿をプロの編集者がどういう風に読んでいるかを観察して欲しいのです。自分が笑わせたいところで笑ってくれたか。自分が感情移入して欲しいところで感情移入してくれているか。編集者はみなさんの作品の最初の読者であり、唯一の具体的な読者ですから、まずは彼らに自分の原稿がどう読まれるかについて深く深く観察してみる必要があります。

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