COLUMN

18歳からの漫画の描き方

vol.14

トキワ荘は何故成功したのか?

さて、チームで漫画を描いて行く、という時に、漫画界で必ず話題として出るのはトキワ荘です。みなさんご存じのように、トキワ荘からはキラ星の如く素晴らしい作家が多く誕生しました。私も何冊かトキワ荘関連の本を読みましたが、赤塚不二夫さんの文章が一番面白かったです。トキワ荘があのように成功したのには多くの理由がありますが、私は一番大きな理由は、あのグループに石ノ森章太郎がいたことではないかと思っています。
赤塚不二夫さんの文章を読んでいると、赤塚さんを始め、多くのトキワ荘の住人は、アイデアに詰まった時、どうしても作品がまとまらない時にはほとんどの場合石ノ森章太郎さんに相談をしていたようです。石ノ森さんのアドバイスは適確で、赤塚さんはそれで何度も作品が描けたと言っています。
このように、石ノ森さんが他の作家さんの原稿を見て、「こうした方がよいんじゃない?」と出すアドバイスを、私たちは「代案」と呼んでいます。代わりのアイデアという意味です。石ノ森さんは、ご自身でも作品を作ることが出来ましたが、この編集者的・プロデューサー的な能力が非常に高かった人物のようです。
漫画に限らず、創作者というのは、いつも孤独です。ものを作るとは、その作品の世界にどっぷりと浸かり、主人公の体験を追体験するということですから、どうしてもバランス感覚が鈍りますし、描いている途中で、「これは果たして面白いのだろうか?」といった疑問が浮かんだりもします。そういう時に、「こっちの方向に進んだ方が主人公が活きない?」とか、「今、このエピソードがあるから物語のバランスが崩れているんだよ」といったアドバイスをくれる人、「僕だったらこのお話をこんな展開にする」とか、「今ひらめいたんだけど、この話をこういうオチにすると面白いと思うよ」と代案を出してくれる人は大変貴重です。
トキワ荘には、石ノ森さんというそういうアドバイスが天才的に上手な作家がいた。だからあれだけの作家が生まれ育ったのだというのが、私の見立てです。

そしてもう1つ、大きな要素として挙げられるのが集団による創作です。人間は環境の生き物ですから、周りの人があまりやる気がなかったり、1人きりだとどうしてもモチベーションが上がりません。トキワ荘の場合、常にみんなが描いている。そして、賞やデビューや連載などの結果が出て、成功を収めようとしている、という状態でした。人間はそういう環境だと、「とにかく自分もがんばって早く結果を出したい」と思いますから、自然とメンバーのやる気が上がります。

代案が出せる人に原稿を見てもらう

石ノ森章太郎さんと比べるのは大変おこがましいのですが、私もいるかMBAではトキワ荘のこの成功例をイメージします。私が生徒さんの原稿を見る時には、「こうしたらもっと良くなるんじゃない?」といった代案をなるべく出すようにしています。もちろん、作者は生徒さんですから、その代案を使う使わないは自由です。しかし、他人にそういう代案をもらうと、不思議と人は「それだったらこっちのアイデアの方がよくないか?」というように、代案の上に良いアイデアを生み出せたりします。
私たちは、時に他人のアイデアを取り込むことで脳みそをリフレッシュする必要があります。
プロの漫画家さんが編集者と仕事をする、アドバイザーを脇に置くのもそのためです。原稿が読める編集者さん、仕事が出来る編集者さんは、この代案を出す能力や、作家の潜在的な能力を引き出すのが大変上手い方が多いです。
なので、一番の理想を言えば、みなさんが企画出しの時点から、プロの仕事の出来る編集者さんとがっちりタッグを組み、多くの代案をもらいながらなるべく短期間で作品を仕上げていくというのが望ましいです。
しかし、当たり前ですが仕事が出来る編集者さんというのは多くの仕事を抱え、大変に忙しいですから、現状でみなさんに余程の光るものがなければ時間を割いてはくれないでしょう。漫画家志望者のうちは、プロットやネームを送ったけれど、2週間ぐらい返事が来ない、というのも仕方のないことだと思います。
では、具体的にどうするかと言うと、「原稿が読める」、「代案が出せる」誰かに、自分の原稿を見てもらいながら作品を進めて行くのが一番合理的だと思います。

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